05.Parking

アマチュア時代に書いた曲が次々と歌詞を代えられる中、僕としては絶対に守り通さなければならなかった歌が2曲ありました。
「Parking」は、その1曲です。

僕らがバンド活動をしていた千葉県船橋市に船橋港という港がありました。
港とは言ってもテトラポットが並んでいる人気のない埋め立て地なのですが、僕等やバンド仲間は車やバイクで何かと言えばそこへ行って遊んでいました。
夜になると遠くに見える市原の製鉄場の溶鉱炉が開き、オレンジの明かりが夜空を照らすなんともロマンティックな景色もあり、彼女を連れてこっそり通っていた奴も多かったのです(笑)。

その港のすぐそばを湾岸道路という道が通っていて、その道沿いには昔「船橋ヘルスセンター」というレジャー施設がありました。
今でいえば「スパリゾート・ハワイアンズ」とか「サマーランドのようなプールやらシアターやらがあり、僕が小学生の頃人気絶頂だったドリフターズの公開生番組なども行われていました。
その湾岸道路に新たに湾岸高速が出来て高架化されたため、訪れる人も激減しヘルスセンターは施設の老朽化と共に閉館してしまいました。

僕等が高校生の時に、その跡地に巨大ショッピングモール「ららぽーと」が誕生し、オープンから何年かした後にその駐車場に「ドライブシアター」が出来たのです。

昔のアメリカ映画でよく見るような巨大なスクリーンに映画を写し、車に乗ったまま映画を見るのです。
音声は洗濯バサミのようなクリップを車のラジオアンテナに繋ぐ事で、カーラジオから流れます。

なんとアメリカンな素敵な世界でしょう(笑)!
夜のオープンですから、当然カップル達にも大人気になりました。
そりゃそうですよね、駐車場とは言え車の中は密室ですから、お互いの親密さを増す絶好の空間です(笑)。

そんな「ドライブシアター」も雨が降るとスクリーンが見難い事もあって上映中止になる日があります。
ある雨の日の黄昏時に、たまたま通りかかった僕は「この景色を、いつか懐かしく思い出す…。そんな大人になる日が来るんだろうな…」と想像して家に帰り、すぐに曲を作りました。

今では「大人」を通り越して「初老」に近づきつつありますが(笑)。

「Parking」という曲は、メロディーに15分位、歌詞に1時間位しか掛かっていません。多分、僕の中でも最短時間で書き上げた曲です。
でも、あの港やドライブシアターや、空想ではなく実際に自分がすごした青春の記憶を代えられては困ります。
それで何が何でも歌詞を守り通したんですね。

「雨降りのParking、車を止めて ワイパーだけが音をたてる…」
これは実話なんです。

1970~1980年代は、ついこの前の様でずいぶん昔なんですね…。