先のレコード会社にばら撒いたデモテープにも収録されていた曲ですが、元々は詞、タイトル共に違っていました。
「Ah~君は幻、過ぎ去った夏の女神 忘れないLove Affair」と言うサビの歌詞でしたが、1986年早々に「東レ株式会社」のCI(コーポレートアイディンティティー)変更のTV CM(5月)のタイアップが決まりかけます。
まぁ「東レ」が「'TORAY'」に変わる!と言うCMで新しさ、若々しさ、爽やかさなどが求められたのでしょう。
我がWINDYに白羽の矢が立ちました。
しかし先にも触れましたが、当時Kittyレコードでは1986年の一押し新人アーティストは別に決まっていたんですね。
ですからスタッフの皆さん(WINDY以外の)は結構冷たかった様に記憶しています。
社長が映画製作に没頭している間に専務が勝手に決めた…。的な陰口をよく耳にしました。
でもまぁ、こっちはそんな事など知ったこっちゃ無いと…(笑)。
そんな事よりも、いざタイアップも決まりデビューも決まると周りに人が増えてくるわけですよ(笑)。「あんた誰?」的な(笑)。
それもおとなしくしてれば良い物を色々言って来る訳ですよ。
「一流企業のタイアップCMなんだから、それなりのクオリティーでないといけない、それには歌詞が弱い」「アレンジが平凡だ」「ルックスがあか抜けない」等々…。
まぁ「船頭多くして船進まず」状態に成りかけた所で社長登場!
「お金はいくら掛かっても良いから、色々全部試してみなさい!」と…。
さすが社長! とは言え、これが地獄の始まりでして(笑)。
まずは歌詞変更と相成りました。
確かに5月にオンエアーされるのに「過ぎ去った夏の女神」は無いわな…。と納得し、書き換えました所で先程の「外野一同」から「違う!」「弱い!」など、お約束の文句が出まして(今でもレコード会社ってこうなんですかね~)。
いよいよ「ビックネーム作詞家に頼んだ方が良いんじゃね!?」と相成りました。
僕自身も「もう、どうにでもしてくれ」と半ばあきらめて半分楽しんで見ていました(笑)。
当時レコード大賞など数々の賞に輝く「ミリオン作詞家先生」の登場です。
そして出来上がってきましたよ、詞が(笑)。
タイトル「偽りのまなざし」。
えっ!?
歌い出し「十月に~ 名前が変わると聞いた… 偽りのまなざし」
えええっ!? 何これ?
新しさ、若々しさ、爽やかさ、は?
どうしたの~?
さすがに「外野一同」も声が出ません(笑)。
とは言え、そこは相手は「ミリオン作詞家先生」です。
速攻「ボツ」には出来ません。と、今度は「うん、無くもないか、でもこの詞にこのアレンジは無いな…」となりまして…。
実は「前田憲男先生に一曲フルオーケストラ的なアレンジをお願いする」と言う全く別のルートで進行していた企みがあったのですが(これは「二人だけのシンフォニー」でめでたく成就いたしました)。
この「偽りのまなざし」も前田先生にお願いしよう!と…。
もう最初のバンドの曲は跡形もなく変わってしまいました。
ちなみに、この前田憲男先生アレンジの「偽りのまなざし」は豪華絢爛、煌びやかで、それはそれは素晴らしいアレンジでした。
テンポもグッと落ちて、大人の音というか「ミュージックフェア」的と言うか…(フジTVのミュージックフェアの音楽は、服部克久氏と前田憲男氏が長い間、担当されていました)。
これはこれで素晴らしいのですが、僕は「本当にこれで行くの?」と…(笑)。
まぁ、結果的にはスポンサーサイドから「元の爽やかな若々しいイメージが良い」と意見が出まして…。危機一髪で難を逃れたわけです。
(ちなみに、これは本当に初めて明かしますが、「HEART WASH」の中に、この前田先生のアレンジした「偽りのまなざし=夏の翼」の一部分が出てきます。これは後のお楽しみで…)
アレンジが元の方向性に戻ると、やはり「歌詞がどうにも合わない…」となりまして(笑)。
件の「ミリオン作詞家先生」に修正をお願いしますが、結果から言えば「どんどん遠ざかる」訳です、これが(笑)。
で、最後は僕(岩﨑)が書いた物を直して頂く「共作」と言う案が出まして…。(もうメチャクチャですよね)。
まぁハッキリ言って担当責任者が優柔不断で決められない人だったんです。
僕が書き直した詞を見た「ミリオン作詞家先生」は、「こんな稚拙な歌詞は直せない!」と大激怒されまして…。
めでたく「退場」と相成りました。
振出しに戻った「歌詞問題」に決着を付けたのも、やはり社長でした。
「夏の女神ってイメージは良いんだからさ、何か、こう、女神が衣をパァーッとひるがえす様な感じが欲しいな…。そんな風にしてみなさい」と…。
「Ah~ 君は幻 伝説の夏の翼 広げる女神さ」
「Ah~ 僕を抱きしめ 風に乗り連れて行って 真夏の向こうへ…」
みなさんが御存じの「夏の翼」は、こうして誕生したのです。何と危ない道を歩んだでしょう(笑)。
ちなみにコーラスだけのイントロは偶然出来た物です。
タイアップCMの映像が「女性が青空の下でシャツを脱ぎ捨てて裸になるシーンをカメラが回り込みながら背中を中心に撮る」と言う、結構大胆な画だったため(もちろんバストトップは見えませんが(ギリギリ)、横乳、下乳は結構見えてます)エロティックさを感じさせない爽やかさが欲しいと言う要望に応えるため、全編にわたって「爽やかコーラス」を入れることにしました。
イントロも元々は「レ~ド~ミ~ レ~ド~ミ~」と言うイントロ後半のギターのフレーズで最初から始まっていたのですが、そこにコーラスを録音していた時に僕が「ちょっとオケ切ってコーラスだけで聞かせて下さい」と言って、コーラスだけが流れたその瞬間、そこにいた全員が皆、同じことを感じたようでした。
今のようにPRO TOOLSなど無い時代です。
リズムがイントロ後半から入るパターンでオケを取り直しました。
イントロのコーラスは結構分厚く聞こえますが、3声で5度の音が一番下に来るという少々変わった音の積みになっていますが、アカペラ始まりに決まった後、もっと声部を多くしてみた所、「爽やかさ」が無くなって逆効果でした。
アナログ24チャンネルのテープを3本使った、当時としては大作の部類に入るオケです(とは言っても殆どがコーラスなんですけどね)笑。
1986年5月10日 デビューシングルとして発売されました。
1st Album「HEART WASH」のオープニングナンバーでもあります。