09.海岸通り物語

「Parking」の部分で触れた、僕にとって絶対に守らなければ成らなかった歌詞のもう1曲はこの曲です。

この曲はアマチュアの頃、それもずいぶん前に書いた曲ですが「HEART WASH」に収録されなかったのは歌詞を代えられる事を拒否しまくった結果です。
どちらかと言えば世界観としては「From South Avenue」より「HEART WASH」の方が似合っていたと思うのですが、そんな理由があったのです。

皮肉な事に(僕にとっては幸運な事ですが)プロデュースをお願いした井上鑑さんが「ダントツの秀作、特に歌詞が」と言って下さった結果、めでたく元の歌詞のまま世に出す事が出来ました。

「若い頃、仲間達と夜な夜な遊び回る…」と言うとアメリカングラフティー的な、車、バイク、リーゼント、不良…を連想しがちだけれど、もっと上品な(普通な)アイビールックを着ていた様な若者にも思い出はある。
そんな感じが凄く出ていて本当に良い曲だね」と言って下さいました。

アレンジも敢えてウォールオブサウンド的なアプローチを残してくれたのも、この曲の持つ世界観と僕の発していた強い想いを理解して頂けた結果かな…と思います。

この曲は伊豆高原のスタジオでミックスしたのですが、セカンドアルバム全曲をミックスして下さった田中信一さん(超ハイファイサウンドの第一人者)が僕のお願いを聞いて、試しにロングエコーをかけてくれました。

信一さんとしては「でも、これはやり過ぎで、この方がタイトで良いでしょ?」と普通のミックスに持って行く予定だったと思います。
が、信一さん自身が「これだけリバーブ(残響エコー)かけた物を聞いてたら取れなくなっちゃったと…(笑)。
めでたく2ndアルバム唯一の音壁曲の誕生となりました。

海岸通りのバスストップの斜め前にあるレストランは、僕のかけがえの無い青春の記憶なのです。



こうして完成した2ndアルバム「From South Avenue」は1987年5月25日発売されました。
ブックレットにも書きましたが、このアルバムが良い物かそうでないかは別として、この経験が無ければ僕は今、音楽家ではなくなっていると思います。